石高コラム

「この一冊」  副校長 藤 支 良 明

野球などの球技には勝負を分ける一球があるように、人生にも将来を分ける一冊の本がある。私には人生に影響を与えてくれた一冊の本がある。『古代への情熱-シュリーマン自伝』である。

祖父も父も歴史の教師をしていた我が家には、歴史関係の本がたくさんあり、小学校6年生の頃の私は、父の書斎にあった本を読むことが好きであった。その時出会ったのがこの本である。その内容は、シュリーマンが少年時代、父からもらった本の挿絵を見てトロイア戦争を歴史的事実と信じ、発掘の夢を抱いた。独学で10数カ国語をマスターし、長年の貿易活動で築いた莫大な私財をなげうって発掘にあたり、1871年に宮殿、城壁やさまざまな財宝を発見し、神話とされていたトロイア戦争を実証した。というものであった。当時歴史小説が好きで、織田信長や坂本龍馬などに憧れていただけであったが、この本を読み、自分も歴史に関わろうと思うようになった。

小学6年生の社会の授業で地域散策があり、私の住む大津市仰木にある「山の中古墳」を訪れた。そこは古墳とは名ばかりで、石碑が一つある公園のようなところであった。私は前述の本に影響を受けていたこともあり、そこで発掘まがいのことをしていた。そうこうしていると、土器片のようなものが出てきて、大発見かもしれないと担任に報告に行くと、担任は「がらくただろう」と一笑に付した。諦めきれない私は、父に相談した。すると父は、「琵琶湖博物館」の学芸員に連絡を取ってくれ、相談に行けるようになった。その学芸員の話によると、この土器片は7世紀の土師器で、当時はまだ比叡山の天台宗は開かれていなかったが、比叡山の木々を霊木と仰ぎ崇める人々がこの地に住んでいた。そして「仰木」と名付けられた。というものであった。担任が土器の一種と説明してくれれば、ここまで調べなかっただろう。しかし、興味を引き出してくれたのは、この本の「神話や伝承は過去からのメッセージだ。遺跡や遺物からその時代をイメージできる者のみが歴史を語ることができる」というシュリーマンの言葉であった。

発掘家にはほど遠い私であるが、史跡や博物館を見て歩くのが好きである。安土城趾を訪れると信長の生き様を思い浮かべるし、池田屋跡では切り込んだ近藤勇の心境を想像し、その時代に意識をタイムスリップしているのである。歴史の教師になったのも、家系もあるがこの本から受けた影響はかなり大きい。

読書は想像力をより豊にしてくれるし、洞察力をより鋭くしてくれる。「この一冊」が語れる自分の人生はそれなりに楽しいものである。君たちも「この一冊」に出会ってくれることを期待している。